「リフレクト・コンポジション」
9/30(月)-10/12(土)
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土日11:00-17:00
水曜日休廊
gekilin.
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『「(日本は)文化の生命更新を外部に求めてきた」という論理を表象する用語が、日本語になかったということです。そこで悩んだ末に、「コンポジション(composition)」という言葉に行き当たりました。この英語には「構造」、「組成」、「構図」、「作曲」という意味がありますが、それを私は「異質な要素の交差結合から生じる新しい造形の創造」という意味で使おうと思ったのです。』
樋田豊郎 工芸のコンポジション: 伝統の功罪についての13試論 里文出版 2021年
溶接彫刻は20世紀初めを代表する作品だろう。ガス溶接自体が新しい技術であったこともあり、フリオ・ゴンサレス、デイビット・スミスをはじめとした作家のマスターピースにもなっている。ゴンサレスは点で繋いでいく溶接箇所を星になぞらえ、新しさへ導くものと考えていた。新しい彫刻として、一枚の岩を削り出す仕事や、肉の代わりとしての粘土を盛る仕事でもない。平面から飛び出す (摘出される) 形を構成することで展開していく。
ロザリンド・クラウスはメディウムの“常識的な約束事”を崩すことで新しさを発明できると論じた。例えば鉄はその特性として「固くて柔らかく、軽そうで重い」といった対照的な要素を持ち、捉えどころのなさがある。この感覚は“常識的な約束事“のように個々人に内在されている。そこにパーソナルな身体や言葉をぶつけて反射してくるものには個性的な要素として“新しさ”がほのめかされている気がしている。
その気分は私の制作にも付いてまわる。
いままでは鉄の板を規格のサイズ内から切り出して(自身の規格に落とし込んで)造形し、基本的に1枚の板そのものが"自立"することで作り終えることが出来た。それ単体では準備した規格の中でどれだけよい造形にできるのか、そこに約束事を探すような仕方で繰り返し形が並ぶ。
溶接した立体はいままでの仕方で、一度作り終えたものを構成することで出来上がる。量感から逃れるように、造形の重心からかたちを反射する。かたちが弾かれあうように構成して、反射した形に予想もできない造形の可能性が立ち上がる。
また平面では全面に錆止塗装した鉄の板をベースに酸化させ、その上から鉄筆やグラインダーで画面を切りつける。錆びた板はフラットではない。鉄筆でひっかく線はその凹凸にぶつかり弾かれる。グラインダーの回転で切り付ける線は揺れながら鉄の地肌を削り出す。鉄の表層は切り込まれずに行為が弾かれている。
私の作品は行為が鉄に“弾かれる“ことで生まれる形を手がかりにしている。制作過程にある反射や、構成に注目することは素朴なことなのかもしれない。だが、それはいつも取るに足らないような「新しさ」を期待させてくれる。
そのシンプルで取るに足らない要素を拾い上げ、新たな価値を持つものへと再発明することこそコンポジションの力だとすれば、それは作者と観客の理論を超えた、純粋なものの魅力をほのめかしてくれるだろう。
参考文献
・ロザリンド・クラウス 井上康彦訳 「ポストメディウムの時代 アルセル・ブロタース《北海航行》について」 水声社2023年
・東京都現代美術館 新しい素材 冨井大裕(美術家/武蔵野美術大学准教授) 現代の眼636号 公開日2021.7.26 https://www.momat.go.jp/magazine/100
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